星がきらきら

Mais comme elle est loin!/遠き七つの星へ愛を

ただリコ三話の正隆のクズっぷりについて、雑感

「ただ離婚してないだけ」三話の何が一番最悪だったかというと、「クズは詰めが甘い」というリアルを懇切丁寧に描いているように見えたことだ。

 

一話時点で、原作である漫画の正隆が「バカなクズ」からドラマでは「可哀想なクズ」に調整されているなとは感想を呟いていた。読む人に主体的にページをめくらせるエンターテイメントから、観る人にチャンネルを変えさせないためへの工夫として、共感できる要素を増やしているのかな、と思っていた。原作は少し前に一巻だけ読んだ。

三話時点で、「なんだこの妙にあり得る話は…」という感情を得ていた。原作から変更した設定が噛み合ったせいなのか、普遍性が生まれてしまっている。

 

【ネタバレ】北山宏光主演『ただ離婚してないだけ』壊れた不倫相手と正妻の分岐点 | PlusParavi(プラスパラビ)

 

この記事はとても好きな記事なのだが、「浮気を隠すという最低限のマナーさえもない完全に“舐められている”実態を伴わない夫婦関係」という文章に少し引っかかった。

確かに舐めている、舐めてはいるんだろうが、少なくともそのマナーが守れる程度に要領の良い器用な人間であればとっくに雪映は正隆のことを見捨てることができていただろうなと。ものすごい個人的な見解のもと。

 

クズについて書きたい。自語りをしたい。

 

世間的にはクズと呼ばれるであろう人間と割と親しくしていた時期がある。その人たちは全然約束を守らなかった。連絡の無いドタキャンや頼みごとのブッチは日常茶飯事だったのだが、理由を尋ねると「親戚の用事」だとか「携帯を壊した」とか言ってくる。「体調不良」みたいな言いようによっては本当になる言い訳ではない、完全なる嘘を。

往々にしてクズは、嘘がバレているとは思っていなかった。正隆については自暴自棄である点(バレてどうなってもいいという感情)が多少あるようにも見えるが、当時私が親しくしていた彼らは、距離を詰めてみたところ、彼らは決して破滅願望だとか見捨てられたいという気持ちに起因して嘘をついたりクズとしか言えない行動をしていたわけでは無かった。本当にただただ詰めが甘い。もっと言えば他人の行動をあまり想定出来ないのだ。

向こうが携帯やSNSのパスワードを簡単なものに設定している。いつも同じルートで帰っている。ゲームのアカウントの最終利用時間が分かるようになっている。こっちは交通機関の情報のチェックをしている。職場を把握している。普段の仕草を見ている。その人と仲のいい人間と連絡を取っている。

それらの些細な要素の組み合わせで推理を出来る人間がいることを、それらの要素を組み合わせて推理するほどに執着する人間が身近にいることを、もしくは悪意や害意のある他人がいることをどうやら彼らは理解出来ていなかった。何度こちらが嘘を見抜いても。

正隆は「孤独だった、もう二度と辛い目に遭いたくなかった」という。それは確実に本当だ。雪映にも萌にも、誰にも見捨てられたくはない。そして私が接してきた人たちは、本心から言っているそれに似た言葉に行動を伴わせることが簡単には出来なかった。それは単純な言葉で言えば「弱さ」だったけれど、一朝一夕でどうにもならないような病であった。

結局当時、自分自身のクズさを認識しているとその欠陥はそんなに気になりはしなかった。その不器用なところをもって相手を自分より純粋な人間だと思えた。嘘などによる害をもって余りあるものをもらっている・もらったものが残っていると感じられる間、一緒にいた。

 

自分は純粋さの欠けたクズだった。自分に良くしてくれていた相手に突然集中力を切らして、連絡を絶ったことが何度もあった。自分が見捨てられるより先に相手のことを見捨てたいとも思っていた。だからなんとなく、向こうの気持ちが分かるとも、釣り合いが取れてるとも勝手に思っていたのかもしれない。ただ自分は純粋さが欠けているので、ドラマは起きなかった。

具体的に言うとヤバい関係の絶ち方をしたら住む場所を一時的にでも変えたり非通知は着信しないように設定したり変な時間のピンポンのドアは開けないだけの悪質さを持たないことこそが純粋なクズの詰めの甘さのそれだと思う。最悪だった。正隆の甘さはまともな嘘を吐くための整合性の組み立て能力を持たない人間がやらかす想定の甘さでしかない。本来正隆が雪映や萌程度の予測能力や害意を持っていたら押しかけてくることも考えられなくはないが、考えられないからこそ人を惹きつけるという悪循環。

四話で雪映に反対して警察を呼ばないのも、問題を初期に解決せずその場しのぎでやり過ごして割と救いようのない段階で露呈しそうなところが見たことある人達のそれで、予告文を読んだ瞬間に「うわあ?!」となってしまった。クズの解像度が高すぎる。

 

雪映は口座やカードの利用履歴で何かを察せる女だ。

萌は街中で正隆とすれちがえる女だ。

この二人はそういった意味で似ている。本来の分岐点は中絶と妊娠のタイミングだが、もう一つあると思う。

それは直接言葉を交わせたか、交わせなかったかの差だ。

正隆はまあ言ってしまえばメンタルをやっている人間だと思うのだが、そこに引きずられるかはそうで無いかは会うか会わないかによって左右された。もうこれは単純な自分の経験としての発言です。

文面は感情を煮詰めさせる。軽い気持ちの「会いたい」も憔悴した状態での「会いたい」も同じ言葉なのに、書く側も読む側も状態によって言葉に乗せられる・乗っている思いを履き違える。ライターを生業にしている正隆が、萌の文面に対して対処が遅れたのは恐らく今回のドラマにおいては意図的なものだったのだと思う。(ただ単純に文面関係なく一回連絡を無視すると全く返信が出来なくなってしまうのも、それでもブロックまでは出来ないのもすごく覚えがある)

結果的には若干間に合ってないものの、雪映と正隆は、雪映が気持ちを直接ぶつけたことによって関係性の修復が行われた。一方で、萌と正隆はあの一方的なハグを最後に、言葉を交わせていない。だからもし「些細なボタンの掛け違い」があの三話ラストに繋がるとしたら、その最後の引き金は街中ですれ違った時に声を掛けられなかった二人の“弱さ”なんだろうな、と思った。

 

(不倫旅行に行けるほどの関係性を築いてしまっていた、という時点でもう救いようが無かったのかもしれないとも思うんですけどね…)

 

雑感の自語りなので以上です。4話楽しみです。色々書いてるけど正隆は全体的に「好みのタイプ」なので毎話毎話自分がいつ恋に落ちるか戦々恐々としています。直近で恋に落ちた相手はバージェス(cv:宮田俊哉)です。