星がきらきら

Mais comme elle est loin!/遠き七つの星へ愛を

2023年4月Endless SHOCK感想

私はとあるアイドルの考え方が大好きで、その考えを信奉していた。

彼は「なぜアイドルは歳を取らないのか?」という質問に対して「それはファンが一番熱量を持って接していた頃のフィルターを通してアイドルを見ているからだ」という旨の回答をしていた。アイドルも歳はとる、あくまで受け取り手のフィルターの問題なのだと。

でも今は、もしかしたらそれが全てではないのかもしれないと思っている。ステージ上では、エンターテインメントという魔法を通してなら、彼らは年齢をコントロールすることが出来る。客の意志や客が持っているフィルターの数に関係なく。

 

2023年4月に観たEndless SHOCKは、ショーという名の魔法の話だった。少なくとも私にとっては。

 

前編(前編ではない)はこちらから

mtnigenkai1.hatenablog.com

※好き勝手1回しか観てない公演の主観を書き散らかす感想ブログです。物語の内容にもガッツリ触れています。

 

Endless SHOCK(以下SHOCKと表記)がメタ構造を孕む物語という認識は、観客の誰も疑うところは無いと思う。カタカナで表記される役名。ステージで輝くキャストをステージで輝くアイドルが演じる。スター⇔二番手という構造は先輩⇔後輩という事務所の構造から代替されるし、思い付きでステージを創るコウイチは、Eternal Producerとして表記される故人が投影される。

そして20年以上に渡って続いているこの演目について、現実世界からの浸食を最も強く受けるのは「ライバル」という存在だろう。全ての公演を見たわけでは無いので断言することは乱暴にしても、15年以上大きく変わっていないストーリーラインの中で*1、変わりゆくライバルが物語の解釈を大きく左右させているとは言えると思う。

 

観客はその演者に対して持っている知識のフィルターをかけ「ライバル」を見る。それが物語の解釈を容易にさせる。少なくとも2021年以前のSHOCKにはそういうところがあったはずだ。*2

前提としてメインキャストは役と同様ステージ上で輝く存在であり、殆ど*3のライバルの中の人はコウイチの中の人のバックに着いて踊ったことがあるし、中の人同士の仲良しエピソードもわんさか出てくる。そこまで多くの説明をしなくても、観客はライバルがコウイチよりも序列的に下であることと、弟的存在だという設定を自然に受け入れられるようになっているわけである。

同年代の切磋琢磨する疑似兄弟による物語。

 

しかし2022年の「バック(二番手と言い換えられる)で踊っていた」という印象を持ち合わせないライバル二人は、そのフィルターの恩恵を受けられなかった。私はそのフィルターを掛けることが出来なかった。*4

結果として私は帝劇の公演に対しては「世代交代(親子)の物語だ」と、そして博多座の公演に対しては「同い年だ?!」みたいな感想を抱いたのだった。両者とも新しいアプローチに見えて、とても良かった。私がキスマイ担なのもあってコウイチとライバルの序列を本当に重要な部分でしか見せない後者は特に衝撃的だった。SHOCKという物語全体への理解も進んだ。

だが実のところストーリーラインに多少の矛盾を感じなかったかというと嘘になる(個人的には今の物語はタツヤに合わせてチューニングされたところから大きく変えていない印象もあるのだが)。

なぜならSHOCKは兄殺しの物語であるべきだからだ。たぶん。

 

SHOCKの根幹はシェイクスピアの劇中劇にあると思っている。
ハムレットは父を殺した父の弟にハムレットが復讐しようとする話だし、リチャード三世はリチャードが兄たちを殺して成り上がろうとする話である。
そして夢にうなされるライバルはいずれもこの「弟」の役が割り振られている。この考えはそういった理由に基づいている。*5
細かいところを突けば、ハムレットは父が殺されてるしオイディプス(父殺し)の物語の類型にあるらしいしリチャード三世は父を間接的に殺したようなものではある*6ので父殺しと捉えられなくもないが、Endlessが付かない頃のSHOCKでは明確に兄が亡くなっているので、やっぱり死ぬ人間の属性は"兄"であるべきだろう。

 

前置きが長くなった。2023年、佐藤勝利がライバルを務めるSHOCKは、確かに兄弟の物語だったのだ。今回はそのことに対する感動を書いている。

 

昨年の帝劇SHOCKについてすごく感覚的な話をすると、そこにいたのは40代のコウイチと30代のリカと20代のショウリだった。大人びたリカはコウイチとよくお似合いで、ショウリからリカへの感情は憧れのお姉さんへの必死の背伸びに見えたし、ショウリからコウイチへの感情は口うるさい年長者への反発に見えた。(記憶を振り返ると流石に父とは言えなかったが叔父さんくらいの距離感ではあったかなと…)
最終的にショウリはコウイチの意志を継いで、次世代のスターとなることを予見させるラストを迎える。それは佐藤勝利の帝劇への帰還という文脈にも重なって見える物語だった。

 

今年は違った。

そこには30代前半のコウイチと、20代後半のリカとショウリがいた。リカとショウリは釣り合いが取れた幼馴染で、兄的存在であるコウイチに対する憧れを共有する。
しかし一幕のラスト、壊れてしまったショウリは階段の上で刀を投げ、
第二幕にいたショウリとリカはコウイチが掛けていた魔法が解けてしまったように、少年と少女の姿をしていた。
そしてラスト、コウイチとのステージを通して、ショウリはコウイチの力に頼らず少年から青年へと成長していくことを決める。そんな物語に見えたのだ。

 

色々魔法だ兄弟だなんだと繕ってここまで書き進めたが、観終わった直後の感想は「プリキュアじゃん」だ。プリキュアは変身すると全盛期の年齢になるのだ。(詳しくは「キュアエース」「キュアフラワー」で検索してください)
彼らは全盛期の姿を思うままに操っていた。

 

第一幕、そこに私が勝手にかけていた「兄弟ではない」というフィルターは無くなっていた。コウイチの弟/妹のようなショウリとリカの姿はどこか大人びていて、物語上の台詞でもある「背中を見て」「必死に食らいついてきた」*7そのままで、それはコウイチの魔力にも、演目としてのEndless SHOCKの魔力にも、中の人たる演者たちの実力にも見えた。

コウイチも明確に若かった。雑誌などでも堂本光一はコウイチの不完全性について言及しているが、このコウイチは例年と比較しても未熟で感情的で、かつ生きたいという気持ちに溢れる若さがあった。具体的には、コウイチが新聞の一面を飾った!のシーンでその一面がステージ横に投影され、その写真が結構前の堂本光一アー写のようなのだが、そのくらいの年齢に見える瞬間が多々あった。*8

直近に観た博多座SHOCKの明らかにアラフォー(主観)でもうこれだいぶ殺される気満々じゃん…みたいなコウイチと比べると特に差が歴然だった。

私は若い頃の彼をそんなに知らないので、それはやっぱりステージの、そして本人由来の魔力だったのだと思う。*9

一方で第二幕。衣装の影響も大きいのだろうが、Don’t look backのシーンのショウリは一幕のショーより明らかに年齢が巻き戻っていて、しかもそれが物語上全く不自然じゃなくて吃驚した。本当にこの子がさっきまでコウイチとやりあってたっけ、と思うほどだったし、それはリカも同様だった。歴代で一番若いリカをここで初めて認識したし、楽屋にコウイチが蘇ってカンパニーのメンバーとわちゃわちゃやってる時の嘆き具合動揺っぷりは歴代で一番若い女の子に見えるそれだった。21歳だ…若ァ…(幕間で検索した情報補正含む)

確かライバルからリカへの好意って「コウイチへの対抗心に由来するもの」と設定されてた記憶があるんだけど、今回のSHOCKは純粋にリカのこと大好きな感じがして(SOLITARYでリカとの出番奪われたショウリの叫びが可哀想過ぎてマジで泣いた)何ならHigherでめちゃくちゃショウリの心配してるのとか罪の告白シーンでショウリの理解者感がにじみ出ているのとか見たらショウリとリカの関係を引き裂く間男だったのではコウイチ?思ったもん…いくらリカの中の人が容姿端麗小顔アイドルという勝利と組ませたい属性持ちとはいえ…

そして最後の演目。ショウリとリカはコウイチに再び必死に食らいつき、背伸びした年齢に戻し、コウイチがいなくなった後でもその魔法は解けない。それはコウイチに着いていくことだけを考えて手にしていた虚実ではなく、彼ら自身の魅力を手に入れた証のようだった。

ラスボスを倒して大人になった後の姿が描かれるタイプのプリキュアじゃんって

 

結論:今年のショウリSHOCKはエンターテインメントの魔法盛り盛りで最高でした。
麗乃リカ21歳/宏光37歳/光一44歳のヒロミツ公演が!!!不安!!!!楽しみ!!!!!*10

 

 

おまけの全然話に盛り込めなかった感想:

ここまで書いといて滅茶苦茶なことを言うと、去年から一番具体的に変化したのはたぶんビバリオーナーだった。元スターというよりも保護者としての属性が強い。去年カホオーナー観て「復活したコウイチへの動揺が強いオーナー、新鮮だ」と思ったけど割とそっち寄りだったしリカのメンタルケア量が例年にないレベルだったしコウイチに対するアドバイスも親心がマシマシだった。ショウリの変化は多分ショウリを演じることに慣れたことによる余裕も多分に影響していると思うが、ビバリは確実に演技プランが違うと思う。それからショウリの一幕ソロ曲MOVE ONも表情の作り方とか振りとかなんかビックリするくらい宏光を感じたのでダブルキャスト互いに演技寄ったことによってショウリが大人びた可能性はあるかもしれない

*1:オーナーの扱いは割と変わっているがそれはともかく

*2:もちろんジャニーズに対して大した知識を持たない観客のことも楽しませるように出来ていることは重々承知だが

*3:ユウマだけ分からないのでこの書き方になった

*4:ユウマにしたって少年隊をメインストリームとする舞台班(ツバサ・ヤラ・ウチなど)の後輩という属性はあったはず

*5:ハムレットでは兄を殺したクローディアスが自らの罪を懺悔しているシーンがあるのだが、これらの台詞はDon't Look Back辺りのライバルと明らかに重ね合わせられるようになっている

*6:息子が死んだ(リチャードが殺した)ニュースに対してのショック死

*7:正確な台詞忘れたけど

*8:全然最近の写真だったら本当に申し訳ない

*9:主要キャスト三人の平均年齢の影響も勿論あるだろうし、あとリカ役の中村麗乃さんの歌声は本当にびっくりするくらい神田沙也加さんに似ていたので、沙也加さんがリカを務めてた頃のコウイチになってたんじゃないか…?みたいな気持ちも浮かんだ

*10:去年の体感は三人ほぼ同い年の物語で、二幕になって初めてヒロミツが弟らしさを僅かに出す感じだったけど今回のリカの若さではその展開たぶん成立しないよなって